「未来洞察ワークショップ」活動報告

 2022年2月から3月にかけて、全8回にわたる「未来洞察ワークショップ」がオンラインで開催されました。

未来洞察とは

 未来洞察とは「未来」を「描き出す」1つの手法です。事実やデータに裏打ちされた「来るべくして来る未来」のシナリオに対して変化の予兆から得られる「ありたい未来」や「ありうる未来」のシナリオを掛け合わせることでビジョンを描き出します。

 前者の『未来シナリオ』は確実性が高い一方で現在の延長でしかありません。そこへ後者の『兆しシナリオ』の視座を導入することで、最終的な『ビジョン』に社会のニーズや大きな変化にも対応できるような「創造性」を加えていきます。

 それではワークショップの模様を振り返っていきます。

fig.1 Zoomで「未来洞察」の説明を受ける


①事前課題:「未来事象」と「変化予兆」を集める

 ワークショップの本格始動を前に受講生はそれぞれ、分野ごとに16個の未来事象と10個の変化予兆を集めました。未来事象とは研究機関などが事実やデータをもとに発表した予測であり、変化予兆とは受講生自身が将来の大きな変化を想像しながらその兆しとなる事象を集めたものです。

fig.2 事前課題で集めた膨大な数の未来事象
fig.3 未来事象の例「2035年には自動運転車が23%を占める」(左)
fig.4 変化予兆の例「完全食の発達で時を忘れて熱中できる?!」(右)

未来シナリオの作成

 それぞれが事前課題で集めてきた未来事象の中から特に気になったもの選び、未来事象同士を掛け合わせながらグループで議論していきます。議論はそれぞれの知識や考えを共有しながらどんどんと未来事象を具体化していき、最終的に未来シナリオへとまとめ上げていきました。

 未来シナリオは「確実性」がカギとなるのですが、議論が活発になる中で突拍子もないシナリオも出てきてしまい、ファシリテーターの方にストップをかけられる場面もありました。 振り返ってみれば議論の中では「新しい技術が今起きている問題をどう解決するか」や「今起きはじめている問題がどのように深刻化していくか」など、無意識のうちに『延長線上の未来』に考えを巡らせていましたが、これこそが未来シナリオの確実性に必要なものだったのだと思います。

fig.5 未来シナリオ作成の様子


③兆しシナリオの作成

 未来シナリオと同様に、事前課題で集めてきた変化予兆同士を掛け合わせながら議論を深めました。確実性をカギとする未来シナリオとは違い、兆しシナリオでは柔軟な発想が大事です。想像の翼を自由に広げ、突拍子もないアイデアが飛び交っていました。 中でも医学部の学生による「将来的に医者はいらなくなる」発言は衝撃的でした。他にも完全栄養食の開発という兆しに対して信州ならではの「昆虫食」を絡めてみたり、ライフスタイルの変化という兆しに対して砂漠や海上での生活の可能性を検討してみたりと、「現在の延長線上」を超えて斜め方向へ広がりを持ったシナリオを描くことができました。

fig.6 兆しシナリオ作成の様子


④ビジョン作成

 未来シナリオと兆しシナリオの作成が終わると、それらを掛け合わせて『ビジョン』を作成しました。年代の近いシナリオ同士やジャンルの近いシナリオ同士をまとめていき、組み合わせたら「何が起こるか」「どんなサービスが生まれるか」という視点で議論を深めました。また、一見関係のなさそうなシナリオ同士を強制的に組み合わせる『強制発想』も行い、そこから新たな気づきを得ることができました。さらに、大枠が固まってきたビジョンに対して「新規性(新奇性)」「需要」「変化度合い」という3つの視点で評価を行いました。現状どこまで近づいているか、実現する上での課題は何かを考えることで、より「リアル」なビジョンとなるよう努めました。

fig.7 ビジョン作成の様子


最終的にできたビジョンを年表という形で整理しました。

fig.8 年表化の様子


ワークショップを終えて

 全8回のワークショップを終えて、私にとって最も大きな収穫は『リアル』という言葉を捉え直すことできた事でした。『リアル』とは現実性と創造性の両輪です。

 正確なデータに基づいて現実的なシナリオを描いても、それだけではリアルなビジョンを作ることはできません。人口減少が進むこれからの日本において地方行政も効率化、デジタル化、AIの導入を避けては通れないでしょう。

 ここまでは『現実的』なシナリオです。

 人間がこなす仕事量を減らす必要があるのであれば、仕事に対して優先順位をつけることもセットです。住民の理解を得ながら行政サービスを効率化していくためには「人間がやらなければならない仕事」を明確化して真摯に取り組まなければなりません。反対に「人間がやる仕事」にプレミア(=新たな付加価値)がつくとも言えるのでそれは新たなサービスの種となり得ます。そもそも「働く」とはこのように「価値を生む」ことであり、未来を考える上でこの原点に立ち返る必要があるのではないでしょうか。

 と、ここまでシナリオと思考を膨らませることができればそこには『創造性』が生まれて、初めて『リアル』なビジョンとなるのです。

 また、リアルなビジョン(特に創造性)を描く上で他者との対話は必要不可欠でした。人文学部の私が「ひと」主体で未来を想像していた一方で、工学部の方は「モノ」主体で想像しており、他方で医学部の方は嬉々としてディストピアを語っていました。異なる価値観を共有することで誰も気づいていなかった新たな価値を全員で発見することができる、そのような経験をこのワークショップの中で味わうことができました。

 未来という漠然とした概念を「今から続いていく先」、「今を越えていく先」という2つの観点で洞察したことで「今すべきこと」をリアルに意識することができるようになりました。

 最後になりますが、ファシリテーターとして議論をサポートしてくださった日本ユニシスの方々、ワークショップ全体のサポートをしてくださった先生方、そして自分にはなかった価値観を共有してくださった参加者の皆様に厚く御礼申し上げます。

文責:木口屋和人 信州大学人文学部1年/ローカル・イノベーター養成コース5期生